Toyの日記

描いている落書きや覚え書きを書き留めています

ブルーライトニング 第26章

 プレスト海軍第七艦隊司令・西郷は、スコット司令の命によりプレスト海軍司令部の会議室に出頭した。議題は、プレストシティ沖海戦の経過報告である。
 西郷は落ち着いた口調で口を開いた。

「確保した捕虜の供述によれば、今回の旅客機攻撃は乗客の一名を暗殺するためでした。相手が旅客機だったため、新人の実戦訓練も兼ねたようです。ただし、旅客機側の回避が巧みで、我が方の迎撃も間に合い、作戦は失敗しました」

 重い事実に、出席者たちが息をのむ。西郷は淡々と続ける。

「旅客機は航路管制装置を外部からハッキングされ、航路を逸脱。機体にはガバメント社の管制システムが搭載されており、バックドアの存在が疑われます。それは、現在調査中です。標的について、捕虜は知らされていませんでしたが、オルソン少将の報告では、乗客リストに彼女の勤務していた投資会社のCEOが含まれており、状況証拠から彼が標的と見られます。詳細は少将から」

 西郷に代わり、オルソンが立つ。

「私の所属していた投資会社は、ガバメント社からの資金引き揚げを決定しました。CEOはダグラス社への投資に舵を切り、その交渉のため自らプレストシティへ来訪。直接話したところ、社内には反対もあったが、最終判断はCEOでした。よって今回の襲撃は、暗殺によって資金引き揚げを止める意図と考えられます」

 高野長官が眉をひそめる。

「失礼だが、一投資会社のCEOを消した程度で事態は変わるのか?」

「変わります。彼の市場影響力は大きい。ガバメント社はすでに資本流出の打撃を受けています」

「つまり、経営的に深刻だな」

「はい。そもそもアルトシティ攻防戦で、ドラグーン三機がタイタンに撃破されなければ、ここまで劇的な資金移動は起きなかったでしょう。ドラグーンはグリフォンの改修型、すなわちガバメント社の看板製品。その敗北は企業イメージの敗北でもあります」

 会議室に一瞬ゆるみが漂う。だが長官の一言が空気を引き締めた。

「西郷司令。報復攻撃の可能性は?」

 覇気の薄い西郷の表情は変わらない。

「自然な流れです。セレクターズは沖合戦で潜水空母を喪失し、戦力は低下。戦力を整え、大規模作戦にでるには時間が必要です。その間は、政界・世論工作や小規模テロで揺さぶってくるでしょう」

「だが君の切り札マルスは、経営監査委員会の判断で量産停止だ。対処は?」

「委員会ではアリス・ダグラス委員長の采配で、一般家庭での試験運用が提案されました。被験者は敷島博士の姪・敷島玲子。試験は問題なく進む見込みです。結果が出れば量産再開に踏み切れます」

「妙に自信があるな」

「スミス博士も先の騒ぎを悔いているはずです。これ以上の妨害はないでしょう。必然の流れです」

 調達部長が口を挟む。

「軍用装備であるマルスを一般人に預けるのは問題では?」

 高野長官が即答した。

「彼女はソレイユと深く関わる娘だ。安全管理の実績もある。スコット司令は?」

「私も異存ありません」

「ならば私も同意します」調達部長が頷き、議論は締めくくられた。

 

「ふう、ゲート多すぎ。めんどくさいね」
 いくつもの認証を通過した後、守がぼやく。
「これで最後」玲子はハンディ端末を操作した。認証が完了し、ドアが静かに開く。ドア陰から少女と大柄な青いロボットが現れた。

 見慣れない機体に瑞穂は思わず小さく悲鳴を上げ、守は「かっこいい!」と声を弾ませる。ソレイユの背後に立つロボットは、玲子にとっても初見だった。

「いらっしゃい、みんな。どうぞ入って」ソレイユが微笑む。
「ただ、玲子には会ってほしい人がいるの。せっかく来てくれたのにごめんね」
「私に? 誰?」
「会えばわかるわ。案内はこのゼムがするから。瑞穂と守くんは私と一緒に」

 大柄なロボット、ゼムが一歩前に出る。「こちらへ」

「瑞穂、守くん、ちょっと行ってくるね」
 玲子がゼムに伴われてセキュリティエリアの奥へ消えると、残った二人は顔を見合わせた。

「ソレイユ、私、さっきのロボットに悪いことしちゃった」
「悲鳴のこと?」
「うん、びっくりして・・・」
「大丈夫。普通は驚くわ。ゼムは人の反応に慣れてる」
「玲子は平気なのね」
「玲子はロボット見慣れてるから」

 

 大股で緩やかに進むゼム。玲子は小走りで並ぶ。
「もし違ってたらごめんなさい。あなた、ライトニング・ファントムのゼム?」
 ゼムの歩みが止まる。ゆっくり振り返った。

「そのとおり。ですが、その部隊名を誰から?」
「うちのロビーに・・・」
「ロビー。なるほど、あなたが一緒に暮らしていると聞いています」

 再び歩きだしながら、静かに続ける。
「あなたのことはロビーやソレイユから聞いていました。けれど、こうしてお会いしてやっと実感しました」

(実感って何の?)疑問は飲み込んだ。
マルスがあなたをマスターに選んだのも納得です」

マルス?」
「はい。あなたが世話をしているマルス。我々ライトニング・ファントムは、彼をリーダーに迎えました」

「え?」玲子が思わず間の抜けた声を出す。
 ゼムは立ち止まり、玲子の前で片膝をついた。大柄な機体が目線を合わせる。

「話が早い。我々ライトニングは、あなたをマスターとして認証します。お許しを」
 突然の宣言に、玲子は言葉を失う。

「どういうこと・・・?」
「あなたをマスターと定め、守護し、意志に従うということです」

「でも、あなたは軍のロボットよ。私の言うことを聞くのは」
「もちろん軍の命令にも従います。それがあなたの安全と意思に反しない限り。両立は実証済みです。それとも、マスターになるのはご不快ですか?」

「いやじゃない」ゼムを拒めば、その存在を否定するようで、玲子は首を振った。
「ではお許しを」ゼムが深く頭を垂れる。
「わかった。私でよければ。それで、私にできることは?」
「ひとつだけ。マルスを大切にしてください。あなたには当然のことかもしれませんが」

「それでいいの?」
「それ以上は望みません。マルスは我々のリーダー。彼のマスターであるあなたは、我々にとってもマスターです」

 ゼムは立ち上がる。
「お時間を取らせました。ご案内します」

 歩きながら、玲子は思いを巡らせた。ゼムは「我々ライトニング」と言った。総意なのだろうか。正直、今の玲子には理解が追いつかない。

(あとでおばさんに相談しよう)

 

マルス